僕は一人で山に行くほど山好きではない。 山は、気の合う仲間と登るから好きなのだ でも、そんな僕でも過去に何度か一人で山に入ったことがある。 仙丈ヶ岳、雲ノ平、六甲縦走・・・ 振り返れば、 胸の奥からどうしようもない衝動に駆られた時 僕は一人で山に行っているようだ。 |
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が、今回は少し事情が違った。 事情が違うから顛末も違う。 その日、家に嫁の来客があるというので 人見知りな僕は家を空けることにした。 が、さしてすることも浮かばない。 山でも登るか・・・ そんなスタートだった。 午前中は用事があるから、時間は半日しかない。 こんなクソ暑い季節に、半日で行って帰れるところなんて クソ暑い低山しかない。 ここらの低山に開放的な山などなく、鬱蒼とした茂みの中を 虫にたかられながら1人歩く・・・考えただけで気が滅入ってくる。 が、なぜ決行してしまったのか。 それはつまり行くところが他にないからに他ならないのだが サブ目的として、久しぶりにバイクで郊外を走りたい、という想いがあったから、心のどこかでこの狂行を許諾してしまったのだろう。 |
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さて、そんなわけで久しぶりにCLのエンジンに火を入れて (これだけで約20分)、兵庫県は三田方面に向けて出発した。 目指すは標高653mの大船山。 ここいらではまだ標高が高い部類の山だ。 が、しかし、道路地図を見ずに山の地図を見て走っていたから、これがなかなかダートあり、ジャングルあり、通行止めありの迷走ぶり。 が、一山超えるたびに広がる田園風景や小川のせせらぎは見事なもので、都会の近くにこんな景色がまだあったんだなぁと、暑さも忘れ感嘆。 そんなこんなで、大船山登山口の標識を見つけ乗りつけた時は既に14時頃だったが、ここでトラブル発生。 入り口が見当たらないのだ。それっぽい道は、獣よけの電気柵やらチェーンで封鎖されてあり入れそうにない。 他に回れそうな道も見当たらないし、この柵を開けて無理やり入るのかもしれないが、その向こうは薄暗く、雑草が生い茂っていて、1人では心細くて入る気がしない。 結局、1〜2分そこで留まって考えてみたものの、怖がりな僕はあっさりターゲット変更を決定。 そこからそう遠くない距離にある「大岩ヶ岳」に向かうことにした。 「大岩ヶ岳」なら過去に2度登ったことがあるからまだ不安は少ない。 が、その考えは大いに甘かった |
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14時半頃、登山口到着。 過去いずれも道場駅側から登っているので、今回は裏側の登山口から侵入。 時間も時間だからか、季節的にも敬遠されるからか、辺りには車の1台もない。 おそらく今この山の中には誰も人間はいないのだろう。 かなり憂鬱だが、ここまで来たら行かずに帰るわけにはいかない。 僕は意を決して、その山に足を踏み入れた。 2分後、後悔の嵐が絶え間なく襲ってきた。 とにかく気持ち悪い。薄気味悪い。 大嫌いなクモの巣がそこら中に張り巡らされている。 おまけにヘビまでにょろにょろと見え隠れしている。 かように単独行とは不安なものなのか・・・ |
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クモの巣ラッセル用の木切れを振り回し もう僕の小さなハートはいっぱいいっぱいで とにかく早くここを抜けたい、抜けたい、その一心である。 ゆっくりと休む余裕もない。 35度を超す気温の中、全身から吹き出る汗をぬぐうこともせず 木々が生い茂りどこを歩いているか分からない道を、ひたすら歩いた。 ラッセルラッセル、クモの巣ラッセル。 ふと思う。 こんなところで熱中症で倒れたらいったいどうなるのか 命より何より、倒れて虫にたかられるのだ嫌だ。 想像するだけで身の毛がよだつ。 |
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そんな、ただただ気持ち悪いだけの道のりを越え、山頂に立った。 何の達成感も満足感もわいてこない。 気持ちよくもなんともない。 だが、ここだけは木が切り拓かれ、それだけがわずかに僕の心を癒してくれた。 だが帰りの行程を思うと憂鬱さは増す。 違うルートから帰ってみようか・・・ 少しは状況もマシかもしれない。 今振り返れば、来た道を帰る方がいいに決まっている。 最短ルートだし、道も分かっている。クモの巣もお払い済みだ。 だがその時はそう冷静には考えられなかった。 少しでも気持ち悪くない道を求めて、僕は来た道とは違う方向へ下りてしまったのである。 |
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この大岩ヶ岳は迷いやすい山として知られている。 起伏が少なく、見通しが利かないため自分がどこを歩いているのか把握しづらいのだ。 合っているとは思いつつ、ぐにゃぐにゃと曲がりくねった道を行くうちに、どんどんどんどん不安は募る。 しかも道は来た道よりも尚一層薄暗く、倒木やらで荒れている。 さらに空(もあまり見えないが)もどんより暗くなり、ぽつぽつと雨まで降り始める始末。 どんどんどんどん早足になり、 まだ出ない、まだ出ない・・・ と焦りながらも、ようやく見覚えのあるところへ出て一安心。 バイクのところまで辿り着いてもまだ落ち着かない。 まだどこかに不安が残っているような妙にざわついた感覚。 終わってみればスタートから1時間も経っていなかったが、 苦行以外のなにものでもなかった。 家に着いてはじめて安堵。 やはり僕には単独行は向いていないようだ。 |